新時代のエネルギーとして、水素が注目を集めています。
利用段階で二酸化炭素を発生することがないため、環境にやさしいクリーンなエネルギーとして活用が期待されています。
燃料電池自動車であるトヨタの「MIRAI(ミライ)」の燃料としても使われる水素は、どのような方法で生成されるのでしょうか。
- 副産物として水素を生成する方法
- 化石燃料から水素を直接生成する方法
- 現在研究中の二酸化炭素を発生しない水素の生成方法
水素は、化学薬品や鉄鋼の製造過程おいて副生成物として生み出される方法と、化石燃料を用いた水素生成方法により生み出されています。
しかし、どちらの生成方法も二酸化炭素を生み出す要因となっている点が問題視されています。
現在研究が進められているいくつかの方法では、二酸化炭素を発生させずに水素を生み出すことができます。
設備面のコストに関する問題や、技術の実用化までの時間などの問題を抱えていますが、将来的には環境に問題を及ぼさない完全にクリーンなエネルギーとしての水素を実現することが期待されています。
水素社会の実現に向けたロードマップはこちらの記事で詳しく解説しています!
【参考記事】【来るの?来ないの?】水素エネルギー社会実現に向けてのロードマップやイメージは?メリット・デメリットも解説
水素を使って走行する燃料電池自動車、トヨタ「MIRAI(ミライ)」に関する情報はこちらからどうぞ!
副産物として生成
水素は製鉄所や化学工場などの製造過程において、副生成物として生み出されています。
水素が副生物として生成される時
鋼鉄の製造時
それぞれ詳しく解説していきましょう。
苛性(かせい)ソーダの製造時に副生
画像引用:日本エネルギー経済研究所資料
副生水素を発生させる方法として、苛性ソーダの製造過程で発生する水素が代表に挙げられます。
せっけんの材料などに使われる苛性ソーダの製造過程において自然と発生するため、すでに実用的な水素生成方法として確立しています。
苛性ソーダ製造時に発生する水素は純度が高く、燃料として販売する外販用として使われるほど品質が高いとされています。
この生成方法は、比較的低コストで水素が生成できるというメリットがあります。
しかし発生した水素をボイラーなどの燃料として利用している場合、水素を外販用に回すためにはボイラーなどで代替燃料を利用する必要があり、その際に二酸化炭素を発生させるというデメリットが生まれます。
また実用化されつつある「ガス拡散電極食塩電解技術」が導入されると、苛性ソーダ製造から副生水素が発生しなくなります。
「ガス拡散電極食塩電解技術」とは?
(注 2) ガス拡散電極法食塩電気分解
食塩電気分解のプロセスにおいて、従来のイオン交換膜食塩電気分解法(IM法)の陰極をガス拡散電極に置き換えた苛性ソーダ、塩素の新しい製造方法。通常、陰極で苛性ソーダと水素が生成するが、ガス拡散電極法を適用した場合、苛性ソーダのみが生成し、水素を併産しない。その結果、エネルギー効率が改善され、最大で使用電力量を3分の2に低減することが可能となる。
鉄鋼の製造時に副生
画像引用:日本エネルギー経済研究所資料
鉄鋼の製造過程においては、一定の水素を含むガスが生成されます。このガスを精製することで、純度の高い水素を取り出すことが可能です。
鉄鋼の製造には高い発熱量を持つ燃料「コークス」が必要とされています。
「コークス」とは?
コークス(ドイツ語:Koks、英語:coke)とは、石炭を乾留(蒸し焼き)して炭素部分だけを残した燃料のことである。漢字では骸炭と書く。
引用:Wikipedia
石炭から生み出される燃料である「コークス」は、製造する際に「炉ガス」を発生します。
この「炉ガス」には50%以上の水素が含まれており、ここから外販用の水素が生成されるのです。
コークスの製造量は安定しており、それに伴いコークスの炉ガスから生成される水素も安定した供給が見込まれています。
しかしコークスの炉ガスの水素濃度は低いため、外販用の純度の高い水素にするために精製費用が必要です。
さらに炉ガスの多くは製鉄所内のボイラーなどに利用される割合が多く、水素を外部に供給するために代替燃料を用いることで、余分な二酸化炭素を発生させます。
化石燃料から生成
何かの製造過程で副生されるばかりでなく、水素の生成そのものを目的とした技術も多く確立し、実用されています。
水蒸気改質による生成
神戸大学研究より炭化水素系の燃料を水蒸気と反応させることで、水素を生成する方法です。
非常に大規模で安定した水素生成ができる上、生成のためのコストが安価で済むというメリットがあります。
ただし、水素を生成する際には、その生成ガスの中に二酸化炭素(CO2)も同時に生成されてしまうため、環境の観点からは問題があると見られています。
また生成できる水素の純度は95~97%程度であり、燃料電池に用いるためにはさらに純度を上げるために精製を行う必要があります。
そのため、追加のコストが必要となり、総コストが上昇する可能性も含んでいます。
新しい技術開発
既存の方法の多くは、水素の生成時に二酸化炭素を発生させてしまうため、環境への影響に関して多くの課題を残しています。
二酸化炭素を発生させず、環境にやさしい水素の生成方法について、現在いくつかの新しい方法が研究され、徐々に実用化に近づいています。
二酸化炭素を発生させない水素の生成方法
光触媒による生成
ISプロセスによる生成
それぞれ詳しく解説していきましょう。
水分解による生成
画像引用:日本エネルギー経済研究所資料
アルカリ性の溶液に電流を流し、電気分解することで水素を取り出す方法が研究されています。
水を電気分解するため、水素生成時に二酸化炭素を発生させることはありません。
水の電気分解の実験の様子↓
すでに水素を生成する方法は確立されており、水電解装置は工場等に導入されています。
しかしその規模は小さく、外販用の水素を大量に生成するような大規模な装置の開発には至っていません。
また、太陽光や風といった再生可能エネルギーにより発電された電気を用いることで、環境に悪影響のない水素生成ができますが、分解装置の大型化にはコスト面、効率面でまだ課題を残しています。
光触媒による生成
光触媒を太陽光に反応させ、水素を生成する方法の研究が進められています。
太陽光エネルギーを利用して基幹化学品を製造するプロセスの研究が進められており、その一部として、光触媒の力で水から水素を生成する技術の研究が行われています。
太陽光と光触媒の力で水素を生成する様子↓
製造段階では一切の二酸化炭素が生まれないため、環境に対しクリーンな水素生成方法として期待されています。
しかし太陽光発電同様、日照時間に大きく左右される面は留意しなければなりません。
ISプロセスによる生成
画像引用:日本エネルギー経済研究所資料
水を熱で直接分解するためには、4,000度以上の高温が必要とされています。
しかしヨウ素(I)と硫黄(S)の化合物を用いることで、理論上は900度程度の温度で水素の製造が可能となります。
現在研究段階の技術ではありますが、二酸化炭素の排出はほぼゼロに抑えることができ、安定した水素供給が行えることが期待されています。
カリフォルニア工科大、水の熱化学分解の新手法開発。産業廃熱を利用した水素製造めざす http://t.co/DHTdrrP1 pic.twitter.com/zxD2lI66
— SJN (@SJN_News) June 11, 2012
日本原子力研究開発機構(JAEA)大洗研究開発センター高温工学試験研究炉(HTTR)連続水素製造試験装置。HTTRから取り出せる1000℃近い熱を使って、ISプロセスにより、水の熱分解による水素製造に関する研究開発を行っています。 pic.twitter.com/kuQpl4NWir
— 寺井隆幸 (@TakayukiTerai) February 1, 2016
「高温ガス炉による水素製造が実用化へ大きく前進
―実用工業材料で製作した水素製造試験装置を用いた熱化学法ISプロセスによる150時間の連続水素製造に成功―」を掲載しました。
150時間の連続水素製造の成功は、熱化学法ISプロセスでは世界で初めてのものです。https://t.co/Ub64zGh7Iq pic.twitter.com/waNSCKhaPy— 日本原子力研究開発機構(JAEA) (@JAEA_japan) January 25, 2019
(共同 3/25)高温ガス研究炉、事実上合格 原子力規制委の審査https://t.co/sD1eAC016E
原子炉で発生した熱を取り出す冷却材としてヘリウムガスを使う国内唯一の高温ガス炉。熱出力は3万キロワットで発電はしない。原子炉から出るガスは950度となり、その熱を利用して水素を製造する研究を計画
— ryugo hayano (@hayano) March 25, 2020
高温ガス炉の更なる利点としては、1000℃を超える高温ガスを用いれば、熱化学水素製造(高温により水を分解する。ISプロセスなど)ができるということも挙げられる。これによって、CO2を排出することなく、かつ比較的安価に水素を製造することができる。
— AJ (@203_kerty) April 29, 2019
二酸化炭素を排出することなく安定した水素生成を目指して、さまざまな分野で研究が進められています。
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